マグネシウムと心臓
不整脈や高血圧とマグネシウム
マグネシウムは便秘解消やストレス対策として広まっているこのミネラルですが、「心臓との関係はどうなのか」という疑問を持たれる方は、まだそれほど多くない印象です。
循環器の外来で動悸を訴えて受診された患者さんの血液検査を確認すると、血清マグネシウム値が基準値下限近くに位置しているケースに出会うことがあります。すべての動悸がマグネシウム不足で起きるわけではありませんが、心臓の電気信号を安定させるうえで、マグネシウムが果たす役割は軽視できないと考えられます。利尿剤を長年服用している方や、野菜・豆類が不足しがちな食生活の方では、特に注意が必要です。
以下では、マグネシウムが心臓にどのように関わるのか、どのような方が不足しやすいのか、食事やサプリで何を押さえておくべきかを、臨床研究と日常診療の両面から順に整理していきます。
マグネシウムとはどんなミネラルか
マグネシウム(元素記号Mg)は、人体に約25g含まれます。そのうち約60%は骨に蓄積され、約38%が筋肉に存在します。血液中に溶けているのはわずか2%程度です。血液検査で測定できるのはこの2%の画分だけのため、血清値が正常でも細胞内や骨のマグネシウムが不足しているケースがあり、臨床的な評価を難しくする一因となっています。
体内では300種以上の酵素反応の補因子として働き、エネルギー産生・DNA修復・タンパク合成・神経伝達など生命の基盤となる反応を支えます。心臓にとって特に重要なのは、カルシウムやカリウムとの相互作用を通じて心筋細胞の収縮と弛緩のリズムを整える働きです。
厚生労働省「日本人の食事摂取基準2020年版」によると、成人男性の推奨量は370mg/日、成人女性は290mg/日です。国民健康・栄養調査の実績値では成人の平均摂取量が推奨量を下回っており、特に若い世代と高齢者で不足傾向が顕著とされています。
心臓の電気信号とマグネシウム
心臓は電気信号によって規則的に収縮します。マグネシウムはカリウムチャネルの機能を維持し、心筋細胞の膜電位を安定させることで、過剰な電気的興奮(不整脈が発生しやすい状態)を防ぐ方向に働きます。
低マグネシウム血症(血清Mg値が0.7 mmol/L未満)が生じると、心室性期外収縮や発作性心房細動のリスクが上昇する傾向があります。集中治療室での報告では、重症心疾患患者の40〜60%に低マグネシウム血症が確認されており、致死的不整脈との関連が示されています。
外来での動悸診療においても、ループ利尿剤(フロセミド等)やサイアザイド系利尿剤を長期服用している方、習慣的に大量飲酒がある方では、血清マグネシウム値を時折確認することが臨床上有益です。利尿剤は腎臓でのマグネシウム再吸収を阻害して尿への排泄量を増やし、アルコールは腸管からの吸収を低下させることが知られています。
血圧とマグネシウム
マグネシウムには血管平滑筋を弛緩させる働きがあります。カルシウムが血管平滑筋に流入して収縮を引き起こすのに対し、マグネシウムはそれに拮抗することで血管を広げ、血圧を低下方向へ導きます。
2016年に公表された22件のランダム化比較試験の分析では、マグネシウム補充が収縮期血圧を平均2mmHg程度低下させたと報告されています。単独での降圧効果は限定的ですが、食事全体の改善・運動・適切な体重管理と組み合わせることで、心血管イベントの長期抑制に寄与することが期待できます。
降圧薬を服用中の方が「マグネシウムサプリで薬を減らせる」と考え、自己判断で服薬量を変更することは避けていただく必要があります。マグネシウムはあくまで生活習慣改善の一環として位置づけ、薬物療法との兼ね合いは主治医と確認しながら進めることが重要です。
心不全患者でマグネシウムが不足しやすい理由
心不全の治療では余分な水分を排出するためにループ利尿剤(フロセミドなど)が広く用いられますが、腎臓でのマグネシウム再吸収を阻害し、尿への排泄量を増やします。こうした機序から、心不全患者では低マグネシウム血症が比較的起きやすい状況にあります。
問題となるのは、マグネシウムが不足するとカリウムも細胞内に保持しにくくなる点です。低マグネシウムと低カリウムはよく並存し、カリウム不足は不整脈リスクをさらに高めます。心不全の外来管理では、血清カリウムは定期確認するのが標準的なフォローアップのやり方ですが、時折マグネシウム値も確認することが重要と考えます。
腎機能が低下している方が自己判断でマグネシウムサプリを追加すると、排泄が追いつかず高マグネシウム血症を招く危険があります。血圧低下・筋力低下・意識状態の変化が主な症状であり、重篤化すると呼吸抑制に至るケースもあります。心不全や腎機能低下を抱える方がサプリを検討する際は、担当医に確認してから開始することが重要です。
マグネシウム不足が疑われるケース
以下の項目が複数当てはまる方は、日常的な摂取量や血清値の確認を検討してみてください。これらはあくまでリスク因子の目安であり、該当するからといって必ずしも不足しているわけではありません。
- 白米・白パン・麺類が主食で、全粒穀物をほとんど食べない
- 野菜・豆類・ナッツ・海藻類の摂取が週3回未満
- アルコールを週10ドリンク(ビール中瓶10本相当)以上飲む
- ループ利尿剤またはサイアザイド系利尿剤を3ヶ月以上服用している
- プロトンポンプ阻害薬(オメプラゾールなど胃酸抑制薬)を1年以上服用している
- 2型糖尿病がある(腎臓からのマグネシウム排泄が増加するとされます)
- 慢性的な下痢や吸収不良症候群を抱えている
- 70歳以上で食事量が全体的に少ない
マグネシウムを多く含む食品
| 食品 | 1回量の目安 | マグネシウム量(概算) |
|---|---|---|
| アーモンド | 20粒(25g) | 約65mg |
| 木綿豆腐 | 1丁(300g) | 約57mg |
| ほうれん草(茹で) | 1束(200g) | 約56mg |
| 玄米ご飯 | 1膳(150g) | 約56mg |
| 納豆 | 1パック(45g) | 約40mg |
| 干しひじき | 大さじ1(5g) | 約32mg |
| バナナ | 1本(100g) | 約26mg |
| 牛乳 | 200mL | 約20mg |
精製された食品(白米・白パン・砂糖)は、加工段階でマグネシウムの大半が失われます。主食を玄米や全粒粉パンに切り替えるだけでも、1日あたり50〜100mgの上乗せが期待できます。
サプリメントの種類と選び方
市販のマグネシウムサプリは含有する化合物によって吸収率や副作用の出方が異なります。代表的な種類を以下に示します。
酸化マグネシウムは国内で最も流通しており価格が安い一方、腸管からの吸収率は4〜30%程度にとどまります。大量服用では軟便・下痢になりやすく、日本では便秘薬としても処方されます。
グリシン酸マグネシウム(マグネシウムグリシネート)やリンゴ酸マグネシウムはキレート型と呼ばれ、吸収率が高く消化器症状が出にくいとされています。価格は高めで国内での入手先が限られる場合があります。
食事以外——サプリからのマグネシウムの耐容上限量は成人で1日350mgとされています(厚生労働省 日本人の食事摂取基準2020年版)。腎機能が低下している場合はこの上限以下でも体内に蓄積しやすいため、自己判断でのサプリ開始には注意が必要です。
当院では、動悸・不整脈・高血圧のご相談を受ける際、血清マグネシウムを含む電解質を必要に応じて確認し、薬の副作用・食生活・腎機能を総合的に踏まえた上でアドバイスするよう心がけています。サプリを飲んでいれば大丈夫と思い込んでいたが実際は血中濃度が不足していた、あるいは腎機能に問題があったのにサプリを継続していた、というケースは外来で実際に経験しており、検査なしには判断が難しい側面があります。動悸・脈の乱れ・血圧のコントロール不良でお悩みの方は、どうぞお気軽にカーサファミリークリニックへお越しください。ご夫婦やご家族そろってお越しいただく方も多く、食生活の見直しを家族単位で取り組むきっかけとして活用していただいています。
参考文献
- Agus ZS. Hypomagnesemia. J Am Soc Nephrol. 1999;10(7):1616-1622.
- Zhang X, et al. Effects of Magnesium Supplementation on Blood Pressure: A Meta-Analysis of Randomized Double-Blind Placebo-Controlled Trials. Am J Clin Nutr. 2016;103(5):1213-1223.
- Rosanoff A, et al. Suboptimal magnesium status in the United States: are the health consequences underestimated? Nutr Rev. 2012;70(3):153-164.
- 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準(2020年版). 2020年.
- Turgut F, et al. The effect of magnesium supplementation on serum and urine magnesium levels in patients with heart failure. J Cardiovasc Med. 2008;9(6):601-604.
