赤ちゃんのアレルギー発症を予防するために、妊娠中から知っておきたいこと
こんにちは、カーサファミリークリニックです。
「卵は食べないようにしています」「魚も念のため控えています」——妊娠中、そんなふうに食事に気をつけているママさんは多いのではないでしょうか。
赤ちゃんのために何かしてあげたい。その気持ちは、とても自然なことです。でも、その食事制限、本当に赤ちゃんを守ることにつながっているのか、自分だけでの答え合わせは結構むずかしいと思います。
実は、「妊娠中に特定の食品を避けることでアレルギーを防げる」という考え方は、現在の医学では否定されています。むしろ、最新の研究が示す「アレルギー予防のために大切なこと」は、多くの妊婦さんが思っているものとは少し違うかもしれません。
この記事では、妊娠中から産後にかけて「本当に意味のあること」をわかりやすくお伝えします。不安を煽るのではなく、正しい知識で、少し気持ちを楽にしてもらえたら嬉しいです。
1. よくある誤解:妊娠中の食事制限でアレルギーは防げる?
「妊娠中は卵や牛乳を食べないようにしている」という妊婦さんの声をよく聞きます。しかし、これは現在の医学的見解とは異なります。
よくある誤解:「妊娠中に卵・牛乳・小麦などのアレルゲン食品を食べると、赤ちゃんがアレルギーになる」
現在の科学的見解:妊娠中・授乳中の母親が特定の食品を除去しても、子どものアレルギー発症予防効果は証明されていません。むしろ食事制限によって、母子ともに栄養不足になるリスクがあります。バランスのよい食事を心がけることが大切です。
コラム:炎症性の食事パターンには注意を
2024年のレビュー研究では、マーガリン・インスタント食品・加工食品が多い「炎症性食事パターン」は、5歳未満の子どもの喘息・喘鳴リスクが約17%上昇することが示されています。特定食品を除去する必要はありませんが、全体的な食事の質を意識することには意味があります。
2. アレルギーが発症するメカニズム:「経皮感作」という考え方
近年の研究で、食物アレルギーの発症メカニズムに関する理解が大きく変わりました。
昔の考え方(現在は否定されています)
「アレルゲン食品を早く食べさせると、消化が追いつかず抗体ができてアレルギーになる」——これが以前の考え方で、2000年に米国小児科学会(AAP)は、アレルギーになりやすい家族歴のある赤ちゃんに対して、「牛乳は1歳まで、卵は2歳まで、ピーナッツ・ナッツ・魚は3歳まで導入を遅らせる」ことを公式に推奨していました。しかしこのアドバイスを守っていた国々で、逆に食物アレルギーの子どもが増えてしまい、2008年には米国小児科学会が「離乳食を4〜6か月より遅らせても、アレルギー疾患を防ぐ証拠はほとんどない」と発表し、従来の方針を撤回しました。
現在の理解:皮膚バリアが鍵を握る
最新の研究で明らかになってきたのは、アレルゲン(食べ物の成分)が皮膚の炎症がある部位から体内に侵入し、免疫細胞と接触することでアレルギーが引き起こされるというプロセスです。アトピー性皮膚炎の赤ちゃんは角層が薄く隙間だらけで、卵などの食品成分が皮膚に侵入しやすい状態にあります。そのため、5〜6ヶ月以降の離乳食を始めるまでに、赤ちゃんのお肌を健康な状態に保つことが食物アレルギーの予防に大切とされています。
赤ちゃんの皮膚を湿疹がない(健康な状態)に保つことが、食物アレルギー予防の第一歩です。
3. 最新エビデンス:本当に大切な3つのポイント
以下に紹介する研究は、いずれもこの高いレベルの医学的根拠(エビデンス)に基づいています。
1. 適切なスキンケア
新生児期からの保湿剤塗布によりアトピー性皮膚炎の発症リスクが3割以上低下することが示されました。またアトピー性皮膚炎の発症が卵アレルギーの発症と関連することも確認されています。ただし、2024年改訂の「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」では、「出生直後から保湿外用剤によるスキンケアを行うことは、アトピー性皮膚炎の発症リスクを下げる」という文言は削除され、「新生児期からの発症予防に保湿剤外用は一概には勧められない」という記載に変更されました。
ただし、アレルギー家族歴がある「ハイリスク児」の場合はスキンケアの早期介入が有効とされています。心配な方はまず主治医に相談しましょう。
2.離乳食での早期かつ継続的な食品導入
①早期導入でピーナッツアレルギーの発症が約80%減少
イギリスで行われた画期的なRCTで、生後4〜11ヶ月の重篤な湿疹または卵アレルギーのある乳児640名が対象です。5歳時点でのピーナッツアレルギーは、食べないグループでは17.2%、食べ始めたグループでは3.2%と、食べ始めたグループの発症が大きく減りました。この研究結果は世界に大きなインパクトを与え、ピーナッツアレルギーの発症予防の考え方が大きく変わりました。
②早期導入で鶏卵アレルギーを約8〜9割予防
国立成育医療研究センターでは、生後4〜5ヶ月時点でアトピー性皮膚炎を発症している食物アレルギーのハイリスク児を対象に、生後5〜6ヶ月から少量の加熱全卵(卵黄+卵白)を摂取すると、1歳時点の即時型鶏卵アレルギー発症を8〜9割予防できることをランダム化比較試験で実証しました。ただし「スキンケアで皮膚の状態を整えたうえで」という条件が重要です。
③米国小児科学会(AAP)の推奨変更
2019年に米国小児科学会は「ピーナッツ、卵、魚などのアレルゲン食品の導入を4〜6か月より遅らせても予防効果はない」「むしろピーナッツの早期導入には予防効果がある」と正式に推奨を変更しました。 現在の考え方は、離乳食を生後5〜6ヶ月から通常通り開始し、様々な食品を少量ずつ試していくことが基本です。
早期食品導入の有効性は示されていますが、皮膚の状態・家族歴・アレルギー検査の結果によって対応が大きく異なります。特に湿疹がある赤ちゃん、すでにアレルギー検査が陽性の赤ちゃんは、必ず専門医の指導のもとで進めましょう。
3.妊娠中の食事の質(多様性・バランス)
妊娠中の食事の多様性が高い(様々な種類の食物を取り入れていることが多い)ほど子どもの食物アレルギーリスクが低下する傾向が示されています。
妊婦さんは「どれかを避ける」のではなく「バランスよく幅広く食べる」ことが、現時点での推奨です。
4. 時期別にできること:妊娠中〜乳幼児期のロードマップ
妊娠中
特定の食品を除去したり過剰摂取したりする必要はありません。主食・たんぱく質・野菜・乳製品を偏りなく摂ることが大切です。加工食品・インスタント食品・マーガリンの過剰摂取は控えましょう。禁煙・節酒も重要です。
出産後すぐ〜生後1〜2ヶ月
両親・兄弟のいずれかにアレルギー疾患がある場合(ハイリスク児)は、かかりつけ医に相談のうえ、皮膚の保湿ケアについて指導を受けましょう。湿疹が出た場合は早めに受診し、適切な治療を始めることが重要です。
生後5〜6ヶ月
離乳食の開始を早めることも遅らせることも、アレルギー予防に有効とは示されていません。通常通り生後5〜6ヶ月から開始しましょう。離乳食開始の前に、皮膚の状態をよい状態に整えておくことが大切です。
離乳食を進める中で
卵は加熱した少量から(固ゆで卵黄、つなぎ料理など)、牛乳はしっかり加熱されたもの(つなぎなど)から、様子を見ながら進めます。アレルギー症状が出た場合はすぐに医療機関を受診してください。湿疹があるお子さんは、摂取の進め方を医師と相談しながら行いましょう。
5. まとめ:妊婦さんへのメッセージ
- 妊娠中・授乳中の特定食品の除去は推奨されません。むしろ栄養不足のリスクがあります。
- 妊娠中は多様でバランスのよい食事(主食・主菜・副菜をそろえる)が大切です。加工食品・インスタント食品の過剰摂取は控えましょう。
- 赤ちゃんの皮膚バリア(湿疹の管理・保湿ケア)が、アレルギー予防の重要な鍵です。特にアレルギー家族歴がある場合は、生後早期から医師と相談してください。
- 離乳食は生後5〜6ヶ月から通常通りに開始してください。食品を遅らせることは予防にならず、むしろリスクになる可能性があります。
- ピーナッツや卵などの早期導入がアレルギー発症予防につながるというエビデンスがありますが、自己判断は危険です。皮膚の状態の確認・医師の指導のもとで進めましょう。
- 不安なことがあれば、小児科・小児アレルギー専門医に早めに相談することが一番の近道です。
主な参考文献
- Tan W, et al. Systematic Review of Maternal Diet Patterns and Childhood Allergy Risk. 2024(PubMedほか28報を解析)
- Du Toit G, et al. LEAP Study Team. Randomized Trial of Peanut Consumption in Infants at Risk for Peanut Allergy. N Engl J Med. 2015;372(9):803-813.
- Natsume O, et al. PETIT Study. Two-step egg introduction for prevention of egg allergy in high-risk infants with eczema. Lancet. 2017;389(10066):276-286.
- Greer FR, Sicherer SH, Burks AW. The Effects of Early Nutritional Interventions on the Development of Atopic Disease in Infants and Children. Pediatrics. 2019;143(4):e20190281.
- Horimukai K, et al. Application of Moisturizer to Neonates Prevents Development of Atopic Dermatitis. J Allergy Clin Immunol. 2014.
- 厚生労働省「授乳・離乳の支援ガイド(2019年改定版)」
- 日本皮膚科学会・日本アレルギー学会「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024」
- 日本小児アレルギー学会「食物アレルギー診療ガイドライン」
この記事を書いた人
三浦 陽子|カーサファミリークリニック 副院長
小児科専門医・指導医・アレルギー専門医・医学博士
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