肺塞栓症、下肢静脈血栓症
下肢静脈血栓症とは、主に足の静脈(全身から心臓に血液が戻ってくる血管)に血栓ができる病気です。これは、長い時間同じ姿勢でいたり、脱水状態、ピルなどの薬の副作用などで起こりやすくなると言われています。足の静脈にできた血栓が、飛んで心臓を通り、最終的に肺へとつながる血管(肺動脈)を詰まらせる病気のことを肺塞栓症といい、危険な病気です。若い人から高齢者まで様々な年齢で起きる可能性のある病気であり、適切な予防と治療が必要となってきます。
いわゆる「エコノミークラス症候群」と言われている病気がこの下肢静脈血栓症・肺塞栓症になります。
どんな症状があらわれる?
下肢静脈血栓症の症状 | 肺塞栓症の症状 |
・足の痛み | ・「突然」起きることが多い |
・足の腫れ | ・呼吸困難 |
・足のむくみ | ・胸の痛み |
・基本的には片方のみ | ・失神 |
・症状がないこともある | ・動悸 |
・めまい | |
・重症な場合は命を脅かすようなこともあります |
原因
・長時間同じ姿勢(長距離移動、デスクワーク)
・脱水
・経口避妊薬(ピル)の使用
・手術後の安静
・肥満
・喫煙
などの原因が知られています。
検査
・問診、身体診察
これまでの生活習慣病などを含めた病歴や、喫煙の有無をお聞きします。長時間の同じ姿勢であったなどのエピソードや脱水状態になっていたかどうかも確認します。
・採血
血栓ができる時に上昇するDダイマーという項目などを含めて一式の項目を測定します。
・下肢静脈エコー、心臓エコー
下肢静脈に血栓が存在するかをエコーを用いて評価します。肺塞栓症の場合は、心臓に負担がかかるため、それらのサインがないかを確認します。
下肢静脈血栓症や肺塞栓症は重症である場合や重症になり得る場合があります。全身に血栓がどれくらいあるかを正確に評価する方法は、病院で行う造影剤を使用したCTが基本的です。下肢静脈血栓症や肺塞栓症が疑われる場合は、当院で一部検査を行うこともありますが、造影剤を使用したCTを行うことのできる医療機関をご紹介させていただくことが多いです。
予防法や治療法
まず、血栓を形成させないということが重要になってきます。同じ姿勢で長時間いることは血栓ができるリスクになるために、こまめに体を動かすことが重要です。脱水状態で血液がドロドロの状態ですと血栓ができやすいため、十分な水分補給も重要です。また、弾性ストッキングという締め付けが強いストッキング(ドラッグストアなどで購入できます)を履くことで、足の血流を促進させ、血栓をできにくくすることもできます。
肺塞栓症・下肢静脈血栓症の診断がつけば、抗凝固療法という血液をサラサラにする薬を内服することが多いです。基本的には3ヶ月程度の内服を行うことが多いですが、人によってはずっと飲んだ方が良い場合もあります。
病院で治療を行う場合、前述のような抗凝固療法に加えて、血栓溶解療法というできた血栓を溶かす強力な治療法やカテーテルで血栓を破砕したり吸引したりする方法、外科的に開胸して手術で取り出す方法もあります。また、足にできた静脈血栓が大きく、飛びやすい場合は体の大きな静脈の血管にフィルターというものを一時的に留置するカテーテルも行うことがあります。
まとめ
肺塞栓症と下肢静脈血栓症は、適切な予防策を講じることで発症リスクを下げることができます。症状に気づいたら速やかに医療機関を受診することが重要です。健康的な生活習慣を心がけ、長時間の同じ姿勢を避け、十分な水分を摂取するように注意しましょう。この病気の症状が出て気になった場合は、いつでも当院へご相談ください。
Q&A
妊娠と下肢静脈血栓症について教えてください
妊娠中は下肢静脈血栓症のリスクが高まりやすい時期です。血液凝固因子という血液を固まらせる因子が増加し、子宮の増大によって静脈が圧迫されやすくなります。その結果、妊娠中は通常よりも血栓ができやすい状態といえます。肺塞栓症となれば補体と胎児の両方に危険を及ぼす可能性があるため、注意しなければならない疾患といえます。そのため、妊娠中は水分補給やこまめなストレッチ、適度な運動を心がけるようにしましょう。
下肢静脈血栓症はどちらの足にできやすいのでしょうか?
基本的に左右どちらにも血栓ができます。ただし、血管の走行の問題で左側にできやすくなることもあります。Iliac compression syndromeと言われており、左総腸骨静脈が右総腸骨動脈と腰椎に挟まれてしまう位置にあるため、血流が滞りやすく、血栓形成のリスクが高まるためです。